
ミュンヘン・オリンピックというと思い出すのは水泳のマーク・スピッツと日本のバレーボール、それからパレスチナ・ゲリラが選手村で引き起こしたイスラエル選手団の拘束と殺害。事件のことは当時小学生の低学年だった自分でも、何でオリンピックのお祭りでそんなひどいことをするんだろうと、とてもショックを受けた記憶があります。その後に行われたイスラエルによる報復のことなどその当時は知る由もありませんでしたが。この作品はオリンピックでの“黒い9月”事件を受けてモサドの下で結成された暗殺部隊の報復活動を描いたフィクションです。
鑑賞し終わって一番最初に思ったのは、どちらがどうだ、気持ちが分かる、とかそういうことは軽々しく言いたくないし、分かりたくない、分からなくて幸いだということ。知ることは大切だと思うけれど彼らの事情を分かりたくはないと心から思いました。暗殺部隊のメンバーであっても家に帰れば家庭的、よき父親であり、子供たちに祖国を与えたい願う気持ちは宗教、民族問わず、彼らが報復を誓う「悪魔」だって同じはず。裏を返せばそんな普通の心を持っていてもなんらかの圧力でテロリストになりうる。理由がどうであれ報復は繰り返しを招くばかりで不毛しか産まない。
『シンドラーのリスト』を作りユダヤ人の受難を描いて世界中の涙を誘った、といっても過言ではないと思うけれど、自らもユダヤ系であるスピルバーグが、本作品によってまさにいまだ血で血を洗う紛争が続き報復するイスラエルを描いてみせたというのは、最後のシーンにニューヨークを選んだことも含めて、勇気があるとかそんな陳腐な言葉ではいい表せないほどとても重いことだと思います。
キャストも主役級から脇の脇まで、撮影もすべて言うことなしのすごい…ああ言葉が見つからない…作品です。たぶん今後いろいろな作品をみるだろうけれど忘れられない、忘れてはいけない1本になりました。
原題:Munich 監督:スティーヴン・スピルバーグ 2005年製作
出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ、ジェフリー・ラッシュ
@渋谷シネパレス

