『ブロークバック・マウンテン』

Brokeback Mountain
ワイオミング州ブロークバック・マウンテンで出会った二人の青年の約20年に渡る愛と友情の物語。
 保守的な土地柄、メソジストとペンテコステの宗派の間にどれだけの違いがあるのかはよく分からないけれど双方とも比較的厳格であるらしいクリスチャンの家、男は男らしくあるのが当然の牧場商売といった環境の中で出会うイニスとジャック。同性の相手に対して抱く親しい気持ちのどこまでが友情でどこからが愛情に変わるのかというのは微妙な線引きでしょうね、体の関係を持てばイコール愛でもないだろうし。出会って山を下りるまでの二人の仲は衝動的に関係を持ってしまったとはいえまだ友情の範疇にあったようにも思えますが、でも町におりたイニスが人目を避けて嗚咽する場面では「友情」というだけでは収まりきらない深い想いも生まれていたんだなと分かる。

 描かれているのがそのひと夏の経験とプラスα年後だけでなのかと思っていたら、半分大河ドラマ風に持続する主人公二人の気持ちを描いたことで物語はどんどん深まっていきます。
 イニスは自分の感情を極力口にしない(再会の時はすげーうれしかったから別?)。初めてジャックと出会った時に世間話程度に自分は山の仕事を終えたら恋人と結婚するんだというけれどそこには義務的なもの、そうするのが当たり前だからそうするんだ的一般道徳的なものに従っているような口振りを感じる。アルマと結婚し子供も生まれ一見幸せな家庭生活を営んでいる時から結婚に破れひとりで暮らし続ける様子をみていても枠の中で慎ましく自制することに努めているような。
 ジャックは初めてあった瞬間から、それが最初っから男色を表しているとは必ずしも言いきれないと思うのですけれどイニスに興味をひかれていて、口数少ないイニスがその不幸な生い立ちをぽつりと話し出すに連れておそらく「情」も沸いていき、ついつい本能的に行動に出てしまう。でも感情に任せて型破りな道を選ぶのではなくて他者にあわせた生活を送り(イニスみたいにストイックに自制しているわけではない)、サザンガールのラリーンと結婚したものの、次第に外からの圧迫感に耐えられなくなっていく。

 二人が再会後、年に何度か出かけていた思い出の山への旅。年を追うごとに事情も感情的にも厳しくなっていった時ぽっかり訪れる悲劇。ラリーンの口から聞かされた話にイニスが思うのはかつて目にしたような男色への見せしめの光景。彼はそれを天罰だと思ったのか、それとも従わざるを得ない運命と思ったのでしょうか。
 ジャックの実家を訪ねたイニスにジャックの父は最初顔色ひとつかえずにあいつは家の墓には入れないというけれど やがてその言葉を撤回するのは、ふしだらでやましく恥ずべきことだと思いこんでいた息子とイニスの仲が、深い友情も愛も本物だったと確信できたからなのでしょうね。ジャックにであった時と同じように紙袋ひとつ手にし、いつでも会いに来てという彼の母親の言葉に家をあとにするイニスの姿が切なくて。
 数年後、結婚の許しを請うてきた愛娘がイニスの許可を得て、本当に愛する人との新たな一歩を踏み出そうと父親の家をあとにする時、残された そして老いたイニスもまた愛する人への永遠の愛を誓う。このワンカットでわたしの中ではヒースの主演男優賞が決定です。

 時の流れの描き方もとても自然だったし、その日々の生活の中で揺れ動いている二人の感情、彼らと関わる妻や娘など女性たちの気持ちもとても丁寧にとても繊細に描かれていてどの登場人物にも感情移入できました。前半描かれるワイオミングの美しい大自然、その中で一体何匹いるか分からない羊ちゃんたちの群れ群れ群れ、透き通る音楽、そして美しくあまりに切ない人間ドラマでありラブ・ストーリー。全部大好きな1本。

原題:Brokeback Mountain 監督:アン・リー 2005年製作
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウイリアムズ
@シネマライズ
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